藍川由美「倭琴の旅」

やまとうたのふるさとをもとめて倭琴と旅をしています

伊福部と空海

今日は、心ならずも20年以上放置してしまった場所へ行きました。
2001年11月19日に訪れた際には垂井町役場まで行ったにも拘わらず
場所がわかりませんでした。タクシー会社も同じ対応でした。
後に、その場所はGoogleMapに表示されたものの、
なかなか足を運ぶ機会に恵まれませんでした。
今日こそ辿り着けますように…との思いで、数々のトラブルを物ともせず到達。
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美濃国不破郡藍川郷空海が足を運んで伊福部氏の菩提寺を創建したなんて
私にとっては歴史的大事件です!!
古代藍川(あゐかはの)は、現在の地名では
垂井町の岩手(いはで)・伊吹・大石地区に比定されているそうです。
垂井町伊吹に美濃国二ノ宮たる伊富岐神社、岩手に菩提寺があります。
古墳の多い地域でもあり、もしかしたら私の先祖の古墳もあるかも?!
 
古代美濃国不破郡藍川郷伊富岐神社があるということは
1980年代に伊福部昭先生から教えていただきました。
「以前からずっと足を運びたいと思ってきた場所ですが、
身体が頑丈というわけでもないし、旅行は大仕事だと思っているうちに
年をとってしまったので、あなたが代わりに行って見てきて下さい」
と言われまして、あとあと追加された他の場所も回っている次第です。
 
関ヶ原まで行くのなら、新幹線で米原へ行き、タクシーで引き返したい。
ここへ立ち寄れるので。
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その醒ヶ井駅から南下したところに「下丹生小字江龍」という地名がありました。
「龍」という地名は鉱脈を示すものだったのではないかと私は妄想しています。
地名の「丹生」は水銀朱から来ており、近江国坂田郡丹郷で赤色顔料となる
丹生の採取を行なっていたのは息長氏と言われているそうです。
よって「下丹生小字江龍」にある下丹生古墳の主は息長氏の族長と考えられ、
当地の息長氏は、聖武天皇の御世に画工令史を務めたのち光仁天皇宝亀2年(771)
造宮少輔として京に遷った息長丹生真人を輩出した豪族と言われています。
 
「江龍」の地名は丹生川沿いにあって、丹生川が北上して合流する天野川
琵琶湖に注いでいるため、古代は重要な水路の拠点だったかもしれません。
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ところが、江龍はこの雪!!
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何とか古墳へと続く道に入ったものの、普通のタイヤでこれ以上進むのは危険です。
今回は、息長氏の拠点の一つに足を運んだというだけで退却…。
(実は米原駅にタクシーが居らず、西口と東口を往復しながら電話してもタクシー会社の半数が休みで
駅にタクシーが戻って来るまで20分以上待ちました。土日は2社しか動いてないそうです)
 
次は、懐かしの美濃国不破郡式内社伊富岐神社へ。
おおお…伊富岐神らしい画像(伊吹颪?)が撮れました!
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伊吹山周辺のイブキ神社へは折りあるごとに足を運んできました。
 
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そして、いよいよ伊福部氏の菩提寺へ。この道の右手→
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ちょっと龍宮っぽいですね…(偏見?)
正面は観音院?
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右手が白山神社への階段のようです。
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しかしながら、雪と雪解け水で、御堂の高さまで上がれず、
最も幅の広い石段を選んで演奏修行させて頂きました。
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もの凄く寒かったので、手持ちの服やストールなど全て着込みました。
 
さて、ここからは関ヶ原方面へ戻って南下し、社名が読めない久久美雄彦神社へ。
この名称に興味を持ったのは、松江市久多彌神社の記憶からです。
聖武天皇天平年間(729-748)大国主命を久多美山頂に祀る」とある古社が
明治の一村一社の合祀令で渡来系の忌部神社に合祀されたのち、
わずか15世帯の氏子が山林を拓いて再建したという話が心に残っていました。
私のような無神論者にはない、祖神を敬う気持ちに打たれたのです。
 
その「クタミ」はまた、京都市左京区の「久多の里」を連想させます。
そこには久多川と古淵神社があります。
「クタ(久多)」と「シコブチ」信仰!? 
「シコブチ」神への信仰は安曇(あど)川水系にしか存在しないそうです。
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安曇川や支流の針畑(はりはた)川、朽木小(くつきこ)川流域に材木産地としての「杣(そま)山」が
点在していたことは、奈良時代から歌に詠まれたりして広く知られていました。
この流域では伐採した材木を筏に組んで運ぶ「筏流し」が盛んだったそうです。
そこに、「志子淵」「志古渕」「志故淵」「思子淵」などと表記される
シコブチ神社が15社、神社跡が2ヶ所、講が2ヶ所あることが確認されています。
 
シコブチ神社の由来には諸説あるものの、「シコ(醜)」は恐ろしいとか強いという意味、
「ブチ」は川の淵や屈曲部などの難所に対する恐怖心のあらわれとされています。
安曇川水系には、筏に乗っている人を水中に引きずり込もうとするガワタロウ(カッパ)
伝承が多く残っていますが、「シコブチ」神は、そんなガワタロウを懲らしめて、
二度と筏乗りに手出ししないと誓わせた神として信仰されてきたとのことです。
 
「シコ」と聞けば、私など「葦原醜男(あしはらのしこを)」=大国主命しか浮かびませんが。
そういえば、前回も四日市市水沢(すいさは)地区周辺(かつての「葦見田郷」)にあった
葦見田神社を「葦原醜男」と付会させようとしてましたね。
 
そもそも葦原(あしはら)とは葦原中国(あしはらのなかつくに)のことで、
高天原と黄泉の国の真ん中にある地上世界、人や国津神が住んでいる世界を指します。
その地上にはさまざまなクニがあって、それぞれのクニを治める国主がいます。
それが「大国主命」=「葦原醜男」であり、それゆえ多くの別名があるのでしょう。
 
大穴牟遅神大己貴命 ○大汝命 ○大穴持神 ○大名持神 ○八千矛神大物主神
○倭大物主櫛甕玉神 ○大物主櫛甕玉命 ○三諸神 ○三輪大神 ○大国玉神 ○大国魂大神
○伊和大神 ○顕国玉神 ○宇都志国玉神 ○出雲大神 ○五百津鉏々 ○兵頭大神 etc.
 
こうした日本各地の国主の中で、現存する最も古い系図を持っているのが伊福部氏です。
長過ぎる前置き、お許しください。
 
今日のメイン、美濃国多芸郡の式内社久久美雄彦神社です。
鎮座地は岐阜県養老郡養老町沢田宮谷1341
祭神の「久久美雄彦神」とは?
以下、Wikipediaより引用。
伊富岐神社の多多美彦命と同一神。但し伊富岐神社の祭神も八岐大蛇、天火明命
草葦不合尊など諸説あるが、多多美彦命(夷服岳神、気吹男神、伊富岐神ともいう)
伊吹山の神とされている。
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境内の由緒書にも「多々美比古命」とありますね。
「タタミ」「ククミ」「クタミ」ですか…。
古代の日本語は奥が深いですねぇ(音韻の変化に頭がついてゆきません)
 
しかし、ともかく「タタラ」には風と水が必要です。
不破郡藍川郷は伊吹山からの伊吹颪と相川&藤川の水に恵まれ、銅鐸も出てました。
ここ多芸郡の牧田川沿いはどうだったのでしょう?
 
「タタミ」彦が伊富岐神であったとすれば、同神とされる「ククミ」彦も「タタラ」に
関わっていたはず。そこで引っ掛かるのが「泳宮(くくりのみや)」です。
その有力な候補地の一つ、久々利村(現 可児市久々利)では享保年間に銅鐸が発見されています。
ただ「泳宮」に景行天皇行幸したとの記録(『日本書紀景行天皇4年2月)がある以上、
伊富岐神を奉じる人々が討伐され、新天地を求めて移動した可能性を考慮せねばなりません。
 
いま確実に言えるのは、久久美雄彦神社の鎮座地が美濃国一ノ宮たる南宮大社
および南宮山の真南、養老山の真北に位置しているということだけです。
「ククミ」と「ククリ」の関係性については今後の課題とします。
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当社までの道は狭くて複雑でしたが、ここからの上り坂はもっと大変でした。
雪が残っていると聞いていたので、ブーツを持参し履き替えました。
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鳥居あたりから振り返ってみました↑。突き当りの右から上ってきました。
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あ! 鳥居の中に見えるのが、カエルを踏んづけていると話題の狛犬ですね。
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何と、台座にツバキの花のような彫刻が!?
やはり前回と同じ「つばき・こも」つながりでしょうか?
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鳥居に向かって左手は、古い神社に付きものの川です。
意外なことに鳥居から先は直進ではなく、緩やかに右折し、逆U字を描きつつ社殿へ。
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あああ…また社殿までゆかず、明後日の方へ向かって演奏修行してます…。
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一応こちらが社殿です。
う〜〜〜む、恐らく、社殿の正面に立つと、伊吹山を遥拝することになるんでしょうね。
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帰途、画像右寄りのブーツ跡にズボッと入り、ギャーと叫びましたが、
左手を見て、ここに落ちなくてよかったと胸をなでおろしました。
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まさに命がけ? 今日も無事で良かった…。
ありがとうございました!